金曜の夜から、下北で、すっぽんくいーの、カラオケうたいーので
さわいで、店を出て、すっかり空も白んだ午前5時ころ、
友人とタクシーに乗ったんです。
車中、友人とはとりとめもなく映画の話をしていました。
で、友人が目白で降りた時、運転手さんに、
「えっと、東池袋なんですけど。このまま目白通りまっすぐで、
不忍通りに入って護国寺に当たったら左です」
と早口で言ったので、不安になって(道知らない運転手さんが最近
多いんで)
「あ、分かりますか?」
と聞いたら、運転手さんが
「ハイ、よく存じていますよ」
と、ややあって
「お客さんは、お芝居か映画かなんかのお仕事ですか?」
ま、眠くて面倒だったし、彼のファンタジーをつぶしちゃいけない
と思って
「は、そんなもんです」
「そうですか。すごいですね」
「いや、ダメですね。なかなか、コレじゃ食えません」
と、またややあって
「お客さんのお宅は、住所的には雑司ヶ谷?大塚?」
「大塚です」
「じゃ、大塚6丁目だ」
「は、はあ」
なんじゃこの人とはじめてカオをみたら、
50後半でのオッサンなんだけけど、ギョッとするぐらい
スルドイ目してんの。バックミラーごしにキラーンっ。
「実はね、私、昔、トーケンやってましてね」
「トーケン? あ、ボクシング?」
「はい、トーケンです」
「大塚6丁目にジムがあったんですよ。そこに通ってたんです。
毎日。もう30年以上の前の話ですよ」
「そうですか。すごいですね」
「・・・まだあんのかな」
「え?」
「ジムですよ」
「ありますよ。スーパーの裏の路地ですよね」
「え! まだありますかー。そうですかー」
キラーン。
「お客さんは、〇〇っていう、ボクサー知ってます?」
「なんか聞いたコトあります」(ほんとは知らないけど)
「私、〇○と試合して判定で負けたんですよ。それが最後の
試合。歯とアゴがはずれちゃってね。それで判定負け」
「お客さん、〇〇亭〇〇って芸人知ってます?」
「あ、テレビに出てる?」
「はい、私、あの人、乗せたことあるんですよ。
まだ、全然売れてないころに。私が運転手はじめたころ。
と、私が乗せたすぐあとに火がついて、いまじゃみんな
知ってる有名人だ」
「そうですか。」
「・・・お客さんも大丈夫ですよ。
私は分かるんです。そういうの」
「分かりますか」
「ええ」
キラーン、キラーン。
「領収書下さい」
「はいはい。・・・・頑張って下さいね。
きっと、大丈夫ですから」
なんでオレ励まされちゃってるんだろうと思いつつ、
おツリと領収書を受け取り、運転手さん、ひときわ
キラーン眼で私を見据えた。
私は、思わずアゴに目がいってしまったけど特別なアゴ
ではなかった。
何故か、急に凶暴な気分が襲ってきそうになったが、もう眠くて
しょうがなかったので、トーケンのオッサンのことは頭から
追いやった。
部屋に帰って、ウイスキーを瓶から口飲みし、たばこ吸って、
布団に入った。
友人がカラオケで歌ってた、S・ワンダーの
「I just call to say I love you」
が頭の中で転調を繰り返していた。
という、なんだか沢木耕太郎風の朝の不忍通りであった。
posted by すかんぴんプロジェクト at 10:00|
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