世の中には、誰がきめたわけでもないが、「このシチュエーションにはこの文章」といった、
暗黙のテーゼが存在する。
誰が決めたわけもなく、しかしながらみんなが金科玉条の如く守る、暗黙の文章表現の法則。
そんなありがちな文章法則のオマヌケさに着眼し、それを新しい文芸として評価し、堪能してしまおうというコンセプトのもとに生まれたのが本コーナーである。
文芸春秋もなしえなかった、芥川でも太宰でもない、全く新しい文芸が、今ここに現れる。
大好評を博した前回の「外人のインタビュー」に続く、「文芸ヒヒョー」第二回目のテーマは「風俗記事・官能小説」である。
「風俗記事・官能小説」特有の文体の芸術性を読者のみなさんも思う存分満喫してもらいたい。++++
◆風俗記事
風俗記事の醍醐味と言ったら何と言ってもあの完膚無きまでに貫かれたテンション高さであろう。
「小生思わずドピュッ!」という常套句にも象徴的に示されているこのテンションの高さは、まさに風俗記事ならではの芸術というほかなない。
(ちなみにこの「小生」という一人称を風俗記事以外で見ることはほぼ皆無である。その意味でこの小生という一人称を見ただけでイッてしまうという、パブロフの犬的効果の恩恵にあずかるハッピーな読者貴兄も少なくないはずである)
たとえば、某H雑誌掲載の、次の「例文」を見てみよう。
世田谷のマンションに住む弥生クン(仮名)は都内の短大に通う20歳の女の子。なんつったって、90cmのEカップバストがショーゲキ的でございます。
『むかしは、ジロジロ見られたりしてイヤだったんですけど、今はいろいろ利用しています』
−エロエロ利用するって、具体的にはどーゆーふうにするの?
『たとえばカッコイイ男の人がいて、エッチしてほしいなァって思ったら、さりげなく近づいて腕とかにバストを押しつけちゃうの』
−うがーっ!! ほとんどイエローカードだね。その攻撃は。で、効果ある?
『アハハ、性交率80%tってトコかな。こないだ友達のカレシにそれやっちゃって、ちょっとモメたんだけど』
−あんた、そりゃレッドカードよ!?
うーん、見事というほかない。常軌を逸したテンション。日常会話で「あんた、そりゃレッドカードよ!?」なんて言われた日にゃ、それこそレッドカードである。
しかし、この文章の中には、そのようなテンションの高さを支える高度な文芸テクニックが多用されていることも見逃してはならない。
まずは、何と言っても巧みな体言止めであろう。
風俗記事を語るには避けて通れない基本テクニックとでもいうべきこの体言止め。この文の中でも「20歳の女の子」という形で使われている。
しかし、より芸術的な体言止めの例としては、某スポーツ紙掲載の次のような文章があげられよう。
「舌と舌をねっとり絡ませあって熱いディープキス。フリーで入ってもこんなあんばい。大阪・ミナミのピンクサロン☆☆の新人、ナオミちゃんのこと。
なにせ、アンヨ丸出しでエッチなお遊びに熱中させてくれるからニンマリ。クリちゃんをやさしくしてあげたら、『イク〜、イク〜』とすすり泣き」
もう、ここまで来るとほとんど漢詩の世界である。まさに平成の五言絶句、現代の李白。あ、これも体言止めか。
「例文」に戻ろう。冒頭の部分にある「弥生クン」に注目して欲しい。
この「クン」という呼称もテンションの高さを増幅させる極めてありがちな基本的なテクニックである。
このテクニックは「ポパイ」や「ホットドッグプレス」系の雑誌においても「やっぱ、××は冬の必須アイテムだよね、と語るのはM大商学部2年の健也クン(写真右)」といったノリで使われる極めて一般的なテクニックである。
また、この「クン」にも見られるようにカタカナの多用というテクニックも、文章のテンションを高めるためには不可欠といってよい。
「例文」でも「ショーゲキ的」、「カッコイイ」、「エッチしてほしいなァ」、「カレシ」とこれでもかとばかりに多用されている。
中でも「ショーゲキ的」の文字は、財津一郎が「キビシイーッ!」叫ぶ瞬間を彷彿させるテンション高まらせ効果を持っている。
さらに、これこそ極めつけともいうべきテクニックは、「いろいろ利用」にひっかけた「エロエロ利用」、「成功率」にひっかけた「性交率」のように笑いをとれる可能性は皆無だが、
しかし巧妙なダジャレの多用である。
前述した体言止めやカタカナの多用とは異なり、これはほとんど風俗界の専売特許的テクニックと言っても過言ではないであろう。
一般的に風俗業界にはこの種のダジャレが氾濫している。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をもじった「ファック・トゥ・ザ・ティーチャー」というアダルトビデオのようにかなり強引なダジャレでインパクトを与えようというテクニックは、風俗業界の基本的な広告テクニックといってよい。「生口撃スッキリ・30分一万円」
といった広告もその顕著な例である。
なお、「ショーゲキ的でございます」に見られるように、妙にへりくだりまくった敬語の使用も風俗記事ではよく使われるテクニックである。これは先ほどあげた「小生」という一人称にも象徴的に現れている。
「メロンちゃんの絶え間ない口撃に小生早くも昇天したのであります」
という具合に、下世話な話題をへりくだって表現するテクニックは、写真週刊誌「FLASH」の写写丸にも見られる重要基本テクニックである。
◆官能小説
さて、官能小説の醍醐味といったら、何といってもあの扱う題材の下品さとは対照的な異様なまでのカタイ言い回しであろう。
風俗記事と扱う題材は同じなのに、対照的なまでにカタイ言い回し。
次の文を見てみよう。
「ああ・・狡い言い方だわ・・。そんな風にしたら、私、本番シタくなっちゃう」
「我慢は無意味だよ。人間シタいときにヤらなくていつヤれば好いのさ」
やがて忽然と現れたその茂みに、一也は静かにその顔を埋めていく。
いかがであろうか。
この妙に難しくて読めない漢字の多用。陰門、陰核のような二字熟語もさることながら、このような通常の文章ではまずまちがいなくひらがなで表記する表現に感じを使うというテクニック。
だいたい「狡い」が「ずるい」って読むことすら、私は今初めて知った。
日常まず使われることのない感じの振り方だろう。
もし手紙なんかで、例えば「オマエ、アメリカ行くんだって? 狡いよな」なんて書いてあったら、あまりの唐突さにビックリして思わず勃起してしまうに違いない。
まさに官能小説ならではのテクニックである。そしてさらにこれに加えて次の文章のように、
「美代子は、真っ白い太股を張り裂けそうに開いて尻をくりくり回した」
「幸子はうっうっと呻きながら秀夫の首を抱きしめた」
という具合で巧みな擬音語が使われた日にゃまさに真骨頂である。
この厳格な表現、難読漢字の中に、ひときわ光り輝く擬音語を挿入することこそ、官能小説ファンを惹きつけてやまない最大のテクニックといえよう。
「呻く」という難読漢字の隣に「うっうっ」と来ることによって、男達も思わず「うっうっ」と来てしまうのである。この私もこの文章を書きながら、すでに「うっうっ」と来てしまっていることは言うまでもない。なお関係ないが、ちなみにこれを風俗記事風に表現すると「小生も文章を書きながら思わずマスを書き出す始末!」ってなノリになろう。一応復習まで。
いかがだったであろうか。いやはや何とも、我々のまわりには、そこら中に「愛すべきおマヌケ文芸」が存在しているということが前回にもましておわかり頂けたであろう。
バッハ張本の文芸ヒヒョーでは、これからもこのような愛すべき文芸を発掘し、皆さんとともにその芸術性を堪能していく所存である。
なお、次回は「その3 小学生の文章」をお届けする予定である。
お楽しみに。
2004年05月19日
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